セミナー講師としての心得

セミナー講師としての心得

データサイエンスの講師を務めはじめてから1年以上が経ちました。ここまで注力してきたこと、反省してきたことに基づいて、セミナー講師としての心得について思うことをまとめました。人間を、それも様々なタイプの人間を相手にする職です。そのため、成功マニュアルは存在するはずがなく、注意すべきことも実に多数多様です。その中でも今回は、以下の項目にフォーカスします。

1. 大切にされている感を与える
2. 「聴衆」ではなく「参加者」になっていただく
3. 「その場」と「お土産」の分別
4. 受講者が見たいキャラクタになりきる

1. 大切にされている感を与える

講師から見て大勢の受講者であるが、一人一人は、それなりの金額と大切な時間を割いて来ています。誰もがそれ相当の価値を得たい、つまり元を取りたいわけです。いただいた時間の範囲で全力を尽くすのは当たり前です。 私は、一人一人に、「特別扱いされている」「自分は主人公である」と感じさせたいです、レベル、背景、参加頻度 によらず。自分とこの人以外にいない空間を受講者の数だけ構築します。「あなたに伝わっているのか、あなたがどう思うか、私はとても気になります」を態度、目線、フォローの仕方で伝えること。

講師が自分に理解してもらうために熱心でいることを感じると、不思議なことに「自分がどれだけ理解・出来るようになったのかを思わず講師に知らせたくなる」現象がおきます。例えば受講後に、「今日の内容のうちこの部分が今まで理解していたのと少し違うとわかった」「ここはもう少し知りたかったなあ〜」などを私のところに述べに来ると嬉しいです。

大学教授にたまにあるパターンですが、講師が椅子に座ったままで、受講者と目を合わせずに原稿を棒読みしているなどもってのほかです。体力が許す限り、講座が2時間でも8時間でも、必ずずっと皆の前で立ってアクティブに話をし、たまには皆の間に歩き回って、一人一人の目を見て話すようにすると良いです。ボディランゲージを適切なシーンで用いることも効果的です。

2. 「聴衆」ではなく「参加者」になっていただく

眠くなる大学の講義のような、つまり講師が一方的に話す講義が世の中に溢れているのは悲しいです。前節と関連して、受講者は自分が主人公として講義に熱中していただくためには「参加すること」が最低限です。普段の一対一の会話だと、相手が一方的に話をする会話というのはお説教のようで、ストレスを感じることがあります。セミナーでは長時間動けずに椅子に座りっぱなしなので、なおさら苦痛でしょう。

では、どうやって参加していただくのでしょうか?受講者に問いかけをするのです。手を上げなくても指名して誘い出します。その際に、教えたことを覚えているか、だけではなく、例えば以下のような ..... ・「このことについて、あなたはどう思いましたか?」 ・「これはどうしてだと思いますか?」 ・「こういう経験って今までありましたか?」 ・「この概念をご自身の言葉で教えてください」 「自分の言葉に変換して他人に教えることができるか」= 本当に理解 ですから。

他社のデータサイエンススクールで講師を行う際には、現場演習の後にチームになってお互いに教え合う時間をたっぷりとります。これは大変素晴らしい制度だと思います。まさに自分の言葉で理解したこと、疑問に思うこと、困ったことを他者に伝えるチャンスです。自発的に言葉にすることで初めて考えがまとまります。

「その場」と「お土産」の分別

対面での研修は、一期一会の真剣勝負の場です。1. その場・その時間でなければ伝えることのできないこと と 2. 持ち帰って欲しい良いお土産、この2つをきちんと区別して、それぞれを大切にすべきです。

1.に関しては、その場で懸命に伝えては反応を拾ってはまた伝える、のように受講者との場を共有します。

  1. に関しては、「良いお土産になる!」と喜ばれるようなテキストを作るのには心血を注ぎます。話さえインパクトがあれば、テキストなんかどうせ誰も帰ってから使わない、ということは私は嘘だと思います。「誰も」のところが嘘です。一人でもそのテキストに頼って帰ってから一生懸命復習してくれるのであれば、その人のために作る価値があります。情報量が多すぎてノイズだらけだとも読むのはしんどいし、少なすぎるともちろん使えないので、「テキストを理解すればそれだけでも十分に学べた」ものが目標です。充実したテキストは、話を省けて、よりインパクトのある部分に絞れるようになるという役割もあります。また、ハンズオン演習の場合、途中で追いつけなくなった時に一瞬でもテキストを見返せば元の軌道に戻れる可能性があります。

世の中には、貴重なノウハウが流される心配して講義のレジュメを配布しない場合もあるります。受講者は帰社後の社内報告が求められるのでこれは非常に困ります。何も配らない、あるいはは項目表のようなアジェンダだけ配らないというのは、受講者を愚弄すると等しいです。どうしても拡散を避けたい部分がであれば、その部分を配布レジュメからカットすれば良いではないでしょうか。

受講者が見たいキャラクタになりきる

セミナー講師は常時人に見られるサービスです。講師は一刻ともこれを忘れてはいけません。俳優やタレントと変わりありません。従って、壇上に立つ時から、もっといえば、参加者の目がある会場に入った瞬間から、受講者が喜べるような人物になりきることが義務です。当然ながらデータサイエンスの講師は知識を伝えることが最重要ですが、同じコンテンツでも講師が見て不快感や退屈さを持つ相手だと受け入れにくいでしょう。

これは講師としての個性を潰す、と言っているのではないです。むしろ自分のキャラを生かして、他で見たことのないような新鮮な雰囲気の講師を目指して、相手を楽しませるように活用したいです。セミナー以外の時の自分の良い点は何かを考えて、(例えば、「笑顔が輝かしい」「人の目を見て話す」「会話上手」「面白いネタを多く持つ」など)それらを講義の場で活かします。同時に、普段人と接する時に失敗しがちなこと(例えば、「声が小さい」「ボソボソ話してしまう」「話すのが早い」など)も考えて、それらを克服することが、プロとしての当たり前です。意識をもって克服することに注力すべきです。

私自身は、気恥ずかしいですが、自分の講義の動画と録音を通勤中に聴きながら、明瞭に話せなかったとか、姿勢が悪いとか、欠点をピックアップしては次回の前に「注意点チェックリスト」に追加するようにしています。

少し話が逸れますが、講師が「自信満々」に話すのは必ずしも良いことか、について賛否両論です。ビジネス系の色が濃いセミナーだと、参加者は基本的に成功者の話を聞きに来ると思われます。一般的なビギナー向けのデータサイエンスのセミナーの場合は、私はどちらかというと比較的低姿勢でいながら受講者に親近感を感じさせたいです。「自分も受講後に勉強を頑張れば、せめて基礎的なことを他者に蛍雪できるくらいの基礎知識を入手できるのだ」というモチベーションを与えるためです。私は、自分は2年とちょっと前に転職してきた時には「データサイエンス」という分野が存在することさえ知らなかったとか、実は色々な専門書をきっちり読んだのではなく、ウェブ上の技術ブログから面白いと思ったことを実装して見たりして勉強してきたとか、の話をします。ただそれは過剰に謙る出はなく、堂々としながらも、親近感を感じさせる事実を提供するのです。